和泉経済研究所

独立系証券アナリストという仕事

「新規事業室長を命ず」 失敗することの大切さ

新規事業室長を命ず―ベンチャービジネス・失敗と成功の岐路

新規事業室長を命ず―ベンチャービジネス・失敗と成功の岐路


作者の久慈毅は、伊藤忠を経てクアルコムジャパンの社長を長く勤められた松本徹三氏のペンネーム。

出版は1998年。まだ、「失われた10年、20年」という言葉が生まれる前だと思うが、不思議と時間を感じさせない内容。

アメリカのベンチャー企業での修羅場、失意の中での仙台暮らし、失敗の経験を買われての「新規事業部長」への就任と、そこでの様々な新規事業の育成という構成が素晴らしい。

大企業が外部や内部のベンチャーに出資したり、連携を奨励する動きが増えているが、本書には、「なぜベンチャー投資なのか」という問いに対するヒントが隠されている。

大企業で働くエリートは何事につけても、まずは「それが組織内部でどのような意味をもつか」を考え、社内で注目を浴びるに足る「大きな絵」を描きたがる。これに対して、実際にベンチャー的な事業を成功させた人たちは、もちろんそんなことは考えず、本能的なものに衝き上げられるようにして動く。「なぜこんなサービスがないんだ?」という疑問や「こんなものを作れば売れるぞ」という信念だ。


キャッシュが積み上がりつつある日本企業の多くは、再び「新規事業」の事業化が優先課題になっているが、そこには本書の主人公「上村瞭三」のような人材がどれだけいるだろうか?